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会報169号(巻頭言)
「アメリカ, 占領, 民主主義」
細 谷 正 宏
2008 年 11 月 4 日。 この日は特別に記念すべき日として長く記憶されるであろう。 いうまでもなく, Barack Obama 上院議員が一般投票で次期大統領に選ばれた日である。 そして 2009 年 1 月 20 日, Martin Luther King 牧師の“I Have A Dream”(1963) の演説からほぼ半世紀を経て, ついに米国史上初のアフリカン・アメリカン大統領が誕生した。 Obama 大統領の尊敬する同じイリノイ州出身の Lincoln 大統領とモールをはさんで向き合い, また Lincoln 大統領を背にして演説した King 牧師と約半世紀を超えて向かい合って就任演説をした Obama 大統領。 まことに歴史的に意義深い。
折しも同志社大学アメリカ研究所は 2008 年に創立 50 周年を迎え, 様々な記念行事が行われた。 5 月の Globalization and Its Impacts の国際シンポジウム, 10 月, Nippon in Black の講演・展示・ライブパフォーマンス, Pacific Crossings の国際シンポジウム, 11 月, 50 周年記念祝賀会, US Presidential Election 2008 in a Global Perspective の国際シンポジウムが開催された。 また, 5 月 31 日~6 月 1 日には本学がホスト校となり日本アメリカ学会の年次大会が開かれた。 その意味でも 2008 年は記念すべき年であった。
ところで“Change”を合言葉にして当選した Obama 大統領は果たして大きな期待に見合うような実績を上げることができるだろうか。 「100 年に 1 度」 の金融不況, 高失業率, 財政や医療, 環境などの国内問題は, たとえ大胆な政策を実施したとしてもその成果が現れるのに時間がかかり, 常に即効薬を性急に求める国民は待ってくれない。 外交政策についても, より国際協調路線に転換していかざるを得ない。 アフガニスタンへの米軍の増強によって, 戦争の拡大にならずに治安を回復することができるであろうか。 戦闘の停止とともに占領によって持続的な体制の樹立が行われなければならないが, それは容易ではない。 フセイン政権を崩壊させ, 「民主主義」 を移植する案が提唱され, 「成功」 した日本の 「占領改革」 (Japan Model) を適用すればよいといわれたが, Bush 大統領の戦争終結宣言以来, 7 年経った今も, 安定した 「民主主義」 が根付いたとは言い難い。 果たしてアメリカの対日占領政策はほかの地域にたいしてもモデルとなりうるのであろうか。
連合国軍による日本の占領がはじまってから今年で 64 年, 日本が独立を回復してから 57 年になる。 長年 「アメリカの対日占領政策」 の講義やゼミを担当してきたが, 日本の占領期は, 学生にとって, もはやはるか遠い昔のことでしかない。 それだけに黒船に次ぐ 「第二の開国」 といわれる戦後日本の社会を形成した 「占領改革」 の現代的意義を強調する必要がある。
繰り返すまでもなく, 敗戦後まもなく, Truman 大統領は Douglas MacArthur 元帥を連合国軍最高司令官に任命し, ほぼアメリカ単独の占領を開始し, 占領軍は 「非軍事化」 と 「民主化」 の名のもとに, 政治, 経済, 社会に及ぶ様々な政策を矢継ぎ早に断行した。 新憲法の制定, 象徴天皇制, 基本的人権, 婦人参政権, 教育制度, 労働組合, 財閥解体, 農地改革, 公職追放等, 革命的ともいうべき 「民主化」 を断行したのである。
こうして戦後の日本は出発したが, 安倍晋三内閣のころから盛んに 「戦後改革」 の見直しが叫ばれるようになった。 しかし, 単に 「押しつけられた」 という理由だけでの改廃ではなく, それぞれの政策を丹念に検討して, グローバル化した世界に対応した, 日本に相応しい 「改革」 が行われる必要がある。
ソ連の崩壊とともにもはや liberal democracy の他の選択肢がないとすれば (フランシス・フクヤマ 『歴史の終わり』), 米国史上初のアフリカン・アメリカン大統領を誕生させた米国の 「民主主義」 の制度と思想, 「民主主義」 の海外への 「移植」 の可能性, 「民主主義」 の自発的発展, 様々な 「民主主義」, 例えば Islamic democracy との 「共存」 の可能性などを検討する必要があろう。 その際, 占領期の 「民主改革」 の具体的な政策の検討が重要であろう。 「温故知新」 である。 歴史は過去をただ骨董趣味的に見るのではなく, 「歴史家と事実との間の相互作用の不断の過程であり, 現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話」 (E. H.カー 『歴史とは何か』) であるといえよう。 (同志社大学)
2009年04月27日 | アメリカ学会会報
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